宇宙航空研究開発機構(JAXA)は、2026年7月5日(日)、小惑星探査機「はやぶさ2」の拡張ミッションで最初の探査対象となる小惑星「トリフネ」のフライバイを実施した。JAXAは2026年(令和8年)7月30日、このフライバイでレーザ高度計「LIDAR」による小惑星フライバイ時のレーザ測距に世界で初めて成功したと発表した。
この発表には、国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構、独立行政法人国立高等専門学校機構大島商船高等専門学校、学校法人京都産業大学、大学共同利用機関法人自然科学研究機構国立天文台、学校法人千葉工業大学、国立大学法人北海道大学が名を連ねている。レーザ測距は、レーザパルスを対象に照射し、対象表面で反射して戻るまでの時間を計測することで、対象までの距離を高精度で測る技術である。
「はやぶさ2」に搭載されたLIDARは、これまで小惑星「リュウグウ」の表面形状データの取得で成果を挙げ、探査機の航法でも重要な役割を担ってきた。今回の小惑星「トリフネ」フライバイでの測距は、高速で移動する探査機から小さな対象にレーザを当てる必要があり、探査機の軌道と姿勢の正確な制御、ノイズを反射光と誤検出しないための機器設定が求められた。
測距は18時29分56.5秒と57.5秒、トリフネ最接近の約4秒前と約3秒前に実施され、それぞれ約20kmと15kmの地点で成功した。「はやぶさ2」は毎秒約5kmで「トリフネ」の中心から約744mの位置まで接近し、そのまま通過した。表面からは約400mの地点を通過しており、太陽系天体フライバイ探査における最小距離を更新した。
LIDARは最接近の4分前から1分後まで1秒に1回レーザを照射した。予定通りの軌道と姿勢であれば、距離が20km前後、最接近の約4秒前から2秒に満たない時間帯だけ、レーザがトリフネに当たる条件だった。「トリフネ」がLIDARの視野内に入ると予測された時間帯には、約20km、15kmの測距値が取得され、それ以外の時刻では測距値は0となった。
レーザは非常に細く絞られており、トリフネ表面のごく一部にだけ当たる。距離が20kmのときの照射範囲は直径およそ30m、15kmでは23mの領域に限られる。測距時にレーザがトリフネ表面のどこに当たっていたのかについては、現在、詳細な解析が進められている。この解析に必要となる機器間での精密な時刻合わせも現在進行中で、今後改訂される可能性がある。
図1、図2、図3のクレジットは、JAXA、北海道大学、大島商船高等専門学校、千葉工業大学、国立天文台、総合研究大学院大学、京都産業大学とされている。図では、トリフネフライバイにおける探査機とトリフネの位置、観測姿勢の関係、LIDARによる測距値とデータ取得時刻、レーザが照射された領域が示されている。測距に成功したときのレーザ照射領域と、測距できなかったときの照射領域をトリフネの画像に重ねると、右上から左下に向かって時間が進み、「はやぶさ2」がトリフネに近づくにつれて照射面積は小さくなっていった。
宇宙空間には大気がないため遠方が霞まず、比較相手もない。このため画像データだけでは、遠くにある大きな天体と近くにある小さな天体の区別がつきにくい。レーザ測距のデータが加わることで、写真にスケールを入れることができ、天体の大きさを正確に求められる。複数時刻で測距データが得られれば、探査機の追跡データと合わせて天体の位置と速度の両方を精度良く求められ、天体軌道の予測精度が向上する。
今回のフライバイ探査を行ったトリフネの大きさは、長軸が約840m、短軸が約340mで、平均直径は540mと推定されている。こうした小惑星に関する情報は、惑星探査だけでなく、地球への天体衝突を把握し対処する地球防衛の観点でも非常に重要とされる。
レーザを使った観測には、太陽光の条件に左右されず、写真では影になって見えない場所からもデータを得られる特徴がある。将来、より高性能なレーザ照射装置を用いれば、日照条件の悪いフライバイ軌道を取らざるを得ない場合でも、探査機を正確に誘導し、天体の大きさや形状、運動といった情報が得られるようになると考えられている。
JAXAでは、今回の成果について、探査機の軌道や姿勢を高精度に制御するため、各社の技術を結集して運用することで得られたものとし、「探査機を小さな小惑星に衝突させる制御技術を実証したといえる。 日本のプラネタリーディフェンスにとって大きな前進だ」としている。今回の測距成功は、JAXAの深宇宙探査技術の高度化に向けた重要な技術実証成果であり、大きなマイルストーンとなった。
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